アーティスト・レポ 松岡 徹さん

アーティスト
松岡 徹さん
(名古屋芸術大学美術学部 コミュニケーションアート 教授)

 

島の王様にだってなれる、

フシギな松岡マジック

 

 

佐久島アートを代表する作家の一人、松岡徹さん。多くの作品が島内で常設展示されています。愛らしくてあたたかみのある作品たちの表情に、ほっこりした人も多いことでしょう。そんな松岡さんの野外作品が、2016年の秋3カ所で新たにお目見えしました。いずれも憩いのスペースをアートによってリノベーションしたもので、うち2カ所はこれまで手掛けてきたスペースをより進化させ、もう1カ所は以前からあったものを松岡流に再生させました。ワークショップで参加者とともに創り上げた作品もあります。のんびりゆったり、アートなひとときを過ごせる場所が増えました。

 

 

 

「島めぐり&アートめぐり」のはじまり

高校までは体育会系(がっちり柔道!)だったという松岡さん。でも絵を描くのが好きだったので、芸大美術学部へ進学。洋画専攻でしたが、ジャンルを問わず自由に制作したい気持ちが強く、当時の版画コースにそういう気風を感じてコース変更したそうです。

卒業後も自由な制作スタイルにこだわり、主に紙を使った作品によるインスタレーションをおこなっていました。

松岡さんが佐久島アートに関わったのは、「三河・佐久島アートプラン21」(アートプロジェクト)が始動した2001年当初から。このときの松岡徹展「サクシマ劇場」でも、紙を素材にした作品を展示しました。しかし2003年の「どこか、おかしい。」では会場が野外へと広がり、しかも島内のさまざまな場所で、その場所ならではの作品を展開することになったのです。このことは、野外環境にも耐える素材への挑戦という意味で、また場の持つイメージと作品との関係という意味においても、松岡さん自身の作品づくりに大きな転機をもたらしました。けれども、それだけではありません。地図を手に野外展示された作品を探しながら島めぐりをするアートな冒険のスタイル、つまり現在の佐久島アートの原型が、これをきっかけにして生まれたのです。展覧会後も作品を楽しめるよう常設展示してほしいという、島民の声にも応える形になりました。

2004年から2005年にかけて、松岡さんはバルセロナ大学の大学院に留学。素材や発想の幅を広げ、現在の制作活動に活かしています。

 

 

のんびりゆったり、特別なひととき

松岡さんの作品は、キュートでちょっとユーモラスながら、佐久島の風景と溶け合って「どこかおかしい」雰囲気を漂わせています。その雰囲気は、公園や広場のリノベーションであっても同じです。イスやテーブルやベンチがなぜこんなふうに不思議な、それでいて大らかで優しいイメージになるのでしょう。

2006年から2009年にかけて作られた「佐久島のお庭」は、中央の山の部分を再制作。松岡アートならではのまあるくてやわらかいフォルムはそのままに、多方向から眺められる、よりステキな山に生まれ変わりました。

また、昭和50年代にハイキングロード上に作られたコンクリート製のテーブルとイスも、カラフルなタイルで彩られた「北のテーブル」として再生。のんびりとベンチに腰を下ろし、目の前に広がる三河湾の絶景を楽しんでみませんか。

そして、昨年あずまやとベンチをモザイクタイルでリノベーションした「ひだまり庵」では、新たに「王様のイス」が誕生。もちろん、実際に座ることができます。

 

 

松岡さんの作品には、しばしば「王様」が登場します。「島内で制作をしていると、誰とも出会わないひとりだけの時間を味わうことがあるんです。風の音や潮騒しか聞こえない、ひとりっきりの贅沢。なんだか自分が“島の王様”になったような気分になります。これは王様気分を思いっきり楽しむためのイス。ここにゆったりと座って、風景をひとりじめして、心地よいゼイタクなひとときを過ごしてください」と松岡さんは言います。

 

佐久島アートに携わるようになって、松岡さんは作品づくりを「自分を表現する」だけでなく、「社会に必要とされるものをつくる」ことでもあると考えるようになったそうです。「たとえば佐久島アートを見たとき、それまでとは島のイメージが違って見えてくるというか、それまで気付かなかった島の魅力が感じられるような、そういう新たな価値観をアートが提示できたらうれしいと思います」…にっこり笑って、松岡さんはそう語ってくれました。

 

 

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