佐久島ライフレポ Vol.20
佐久島を“ゆったりステイ”できる場へ
大林昭仁さん、久美子さん
2024年の春、佐久島に新たなお店がオープン。前年の夏から少しずつ足を運び、秋にご夫婦で移住してきた大林さんが営む定食屋さんです。佐久島との出会いやこれからへの想いを、お二人にお聞きしました。
佐久島との出会いから移住まで
大林昭仁さんは、お住まい兼お店であるこの家のオーナーさんと若い頃からの知り合いで、その関係から佐久島へ遊びに来たことはありました。オーナーさんはこの場所をとても気に入って購入したのだとか。
実は何年か前にその方から、ここに住んでお店をしないかという話をいただいたのですが、昭仁さんは名古屋で自分の店を経営していたため、その時はお断りしたとのこと。カウンターのみのショットバーで、食事も提供していました。
しかしコロナが収束に向かう頃に再びその話が出て、何か違うことにもトライしたいと考え、名古屋の店を継続しながら、新たに佐久島という離島で何かをしてみようかという気になったのです。
何もない場所(島内に何もないという意味ではなく、自分との関わりがなく、特別な知識もなければ助けてもらえる友人や知人もいないという意味)で新しいことをするというのは魅力でした。決して佐久島でなければならなかったわけではありませんが、ご縁はあったということでしょう。
初めてこの家の中に入ったのは2023年の7月。思っていたよりもずいぶん状態が良くてきれいなのに驚き、大幅な改修は不要だなと思いました。周囲の景観も良く、庭先にテーブルを出して営業できそうだ、海の家のように夏場の3ヶ月ぐらいここで飲食店ができたらいいなと。しかしちゃんとここに住み、島に根付いて営業するのがこの家を借りる条件だったため、移住を考えるようになりました。
奥様の久美子さんは広告デザイナーですが、ちょうどリモートワークが定着してきたことから、2023年11月、ご夫婦揃っての移住が実現したのです。
定食屋をオープン
新オープンのお店は「かもめの食堂」という名の定食屋さん。居酒屋でなく食堂にしたのは、来島者の多くが一色港まで車で来ていると思われるからです。「船を降りた後のことは知りません…では無責任な気がします」と昭仁さん。
島に宿泊する人が増えて「夜に開いているお店はないの?」という声が高まれば、夜は居酒屋テイストにすることもあり得ます。
「以前の店ではもともとエスニックやイタリアンなメニューが多かったので、和の料理とは限りません。でも〝佐久島の食材〟を中心にすることだけは守っていきたい。特に魚がメインというわけでなく、島で採れた野菜が美味しいので、それも使いたい。畑は初めての挑戦ですけど、自分で育てたものも出したいですね」と昭仁さんは言います。「定食屋とはいっても、日替わり1種と固定2種の3種類ぐらい。週に何回も遊びに訪れる来島者は少ないはずですから」とのことです。
次はピザ窯づくりへ
後々には庭先にピザ窯を作りたいという夢も。ピザ屋さんの食堂ですね。後々とはいっても遠い先の話ではなく、年内に窯ができ上がって、来年の春にピザを焼けたらという思いがあるそうです。今はピザ窯の作り方もインターネットの情報でわかり、それによればそこそこの大きさの窯だとレンガが380個ぐらい必要だとか。材料をどうやって運ぶか悩ましいのですが、引っ越しも自分たちで行ったので、その経験も踏まえていろいろ考えているところです。
昭仁さんは「お金を払って業者に作ってもらうなら、佐久島でなくてもいい。この島でやるのだから、まずは自分で作ってみる。コンビニもなく不便なこともいっぱいの島だけど、便利に暮らしたいというスタンスではないので」と語ります。薪をどうするかもこれから考えますが、自然倒木や間引きした木が海岸に置かれているのを見ると、そういうのを切って使えば環境にもいいのかなと思ってはいます。
「ゆくゆくは宿泊もできるお店にして、そういう時はワークショップのようにピザを焼く体験もしてもらいたい。親子で楽しく、自分たちの好きな具材を入れてピザを作って食べる体験。それを売りにできたらたらいいなと思います」と、夢が広がります。
通信環境が整えばもっと!
移住が11月になったのは、久美子さんが仕事をする上での通信環境(ネット環境)を一定程度整えるまでに少し時間を要したからです。佐久島は離島であり、本土、ことに都心部と比べたらネット環境は良いとは言えません。久美子さんはこれまで仕事上で大容量のデータのやり取りをしていたので、佐久島で何とか仕事をこなせる方法を模索しました。
ネット環境について様々な方法を調べたり問い合わせたりしたのを通じて、お二人とも離島の回線状況の厳しさを痛感したそうです。実際には何とかやり取りできる状態になりましたが、やはり容量の壁はあります。それでも容量の大きい画像などのデータをリサイズするという作業を伴いつつも、リモートワークができる環境にはなりました。
「ネット環境が良好になるにつれ、佐久島に移住あるいは仕事スペースを作る人は増えると思います。ニーズが増えれば通信企業も採算を見込めるわけで、さらに良い環境にするのが可能になるのでは?」と、お二人は言います。そう願っている人はきっと多いことでしょう。
来島者に「ゆったりステイ」を提案
「自分がこの島へ遊びに来ていた時は、いつも帰りの船のことを考えていました」と思い出す昭仁さん。「次にどこへ行くのか、何時の船で帰るのか、そんなふうに島での過ごし方の選択肢を自分で狭めてしまって、ゆっくり食事もできません」
行く場所と移動のことばかりを考えて動くのはもったいない。できれば島でゆっくり過ごせるイメージに変えていけたらと思っているそうです。たとえばハンモックでのんびりしたいなと思ってもらえるような島、何もしないことを楽しめる島に。
旅先のごはんはメインの魅力になり得るけれど、「○○を食べに佐久島へ行こう」にはまだ少し足りないかもしれないと、昭仁さんは思っています。でも佐久島をそういうふうにしていくお手伝いができたらと思っているのです。
引っ越しを手伝ってくれた年下の人たちが1泊したのですが、彼らはどこかへ出かけるでもなくずっとここで、バーバキューをして、海を見て、お酒を飲んで、ゴロゴロして帰っていきました。それがとても楽しかったからだそうです。初めての来島でそんな楽しみ方できるのは素晴らしいですね。でも佐久島のリピーターは、たいていそうやってのんびり過ごしているように見受けられます。
「今度はあそこで□□を体験したいとか、この景色を眺めながら1日のんびりしたいとか、もう1回行きたくなる要素はいっぱいあると思います。そんな魅力的なゆったりステイを、島を訪れる人に提案していきたい」と、大林さんご夫婦は語ってくれました。