アーティスト・レポ 横山 将基 さん

アーティスト
横山 将基 さん
(建築設計事務所 株式会社TAB)

 

人や自然が色を織りなす
森のパレット

 

佐久島の山あいに、海を見下ろすように建つアート作品「北のリボン」。その作者である横山将基さんが、2022年12月、島の森の中に新たなアート空間を創造しました。「佐久島ツリーハウス・プロジェクト」の第一弾となる「森のパレット」です。

 

 

佐久島との関わりは
アートのボランティアから



横山さんが初めて佐久島に来たのは、平田五郎さんによるアート作品『佐久島空家計画/大葉邸』制作の際にボランティアとしてお手伝いに来た時のこと。

まだ名城大学(理工学部建築学科)の学生でした。

先輩に誘われてボランティア参加し、1週間ほど島に滞在したそうです。その時に、佐久島アートのディレクターと出会いました。

 

大学を卒業後、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)でメディア表現を専攻。その後、IAMASで師事した建築家の先生の事務所(入江経一 + Power Unit Studio / 岐阜県大垣市)で修行中、現在の事務所【TAB】の代表となる西田さんと出会い、TABの設立時に入社しました。

北のリボン

それから2年ほど経った頃、佐久島のディレクターから「最近どうしていますか」との連絡が入り、それを機に「北のリボン」制作の話が進み、横山さん自身が佐久島アートに挑むことに。

 

そして7年後の2022年12月、横山さんの新たな作品が佐久島に登場しました。

 

TABは建築設計を軸に、家具・インテリアなど建築にまつわるプロダクトや、イベント運営など、「ARCHITECTURE & AROUND(建築とその周辺)」を掲げて幅広く活動しています。今回のようなアート・プロジェクトも担っています。

 

 

作家が毎年変わっていく
ツリーハウス・プロジェクト

佐久島の森の中で寄り添って立つ2本のヤマモモの木に、半年間の期間限定で作品が設置され、次の年にはまた新たな作品が創られるという、佐久島ツリーハウス・プロジェクト。

横山さんはそのトップバッターとなりました。

 

制作にあたっては、

・木を汚さない

・傷付けない(ビスなどを打たない)

・中が見えなくなるような囲いをつくらない

・会期終了後の撤去が容易

といった、いくつかの条件がありました。この条件を念頭に置き、横山さんは「やりたいこと」を2つ考えました。1つは技術的なトライ、もう1つは空間的なトライです。

 

 

 

横山さんは山登りが好きで、しばしば1人で雪山へ行ったりするそうです。地面や石の上に座って休憩しながら、自分が来た道やこれから行く道を眺めながら、ふと見上げると木がある。

木の上で休憩できたらいいなと思うのです。

そうすれば気持ちがいいし、もう少し遠くまで見渡せるだろうな…そういう空間への想いを形にするというのが、「空間的なトライ」です。

そして、ビスを打たずに物を組み立てる、しかも短期間とはいえ人が乗っても大丈夫な構造にするという課題を具現化するのが、「技術的なトライ」です。

対象となる木を3Dスキャンし、その3DデータをPCに取り込んで、データを元にデザインをいくつも構想し、形を決めていきました。

島内で全てをつくるのは材料の輸送面でも困難です。

できる限り現場で容易に組み立てられるよう、事前にある程度プラモデル化しました。これがうまくいき、施工はとてもスムーズに進みました。

 

森のパレットを介して
さまざまな色が踊り、広がる

 

形状の構想を見てディレクターが「パレットみたい」だと言い、横山さんは「ああ、“森のパレット”だ」と初めて思いました。木の葉など、森の中のいろいろなものがその上に落ちて色が生まれたり、人がそこに乗って彩りを添えたりするんだろうなと。

作品完成後、実際に人がパレットの上に乗るのを少し遠目で見ていて、横山さんは改めて「いいな」と思ったそうです。

木の上で休憩したかったというそもそもの想いが、本当に形になったのです。

 

みんな、地面より少し高いパレットの上から自分の来た道・行く道を見下ろしていました。木々の間から見える空を見上げている人もいました。

それだけではありません。

パレットに乗って立ち上がればそこにまた木があり、思わずもたれかかったりして、違うアクションも生まれます。パレットがさながらステージのようで、色が踊りはじめます。

梯子も2つ設置。作品を円形にしたことで回遊性が生じました。ぐるぐる回る楽しさもあるし、いろいろな角度から自由に見たり写真を撮ったりできます。

「子どもから大人まで、遊び感覚で体感できる作品になりました」と横山さん。

2023年3月末までの期間限定展示を、多くの人に楽しんでもらいたいですね!

 

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