佐久島で“漁師の嫁の店”を開店 池部愛さん

2025年の早春、佐久島東港のそばに新しい食堂がオープンしました。その前年の夏から島で暮らす池部愛さんが切り盛りしています。愛さんの夫は、以前この島で地域おこし協力隊員として活動していた池部彰さんで、現在は新米漁師として漁に挑む日々。愛さんは彰さんが獲った魚介たっぷりの料理を提供しています。

 

結婚後しばらくは名古屋で生活

愛さんが彰さんと結婚したのは、まだ彰さんが協力隊メンバーだった時。当時愛さんは名古屋にお住まいで、市内の会社に勤務していたため、しばらくの間は別々に生活していました。2人は佐久島で暮らすことを決め、少しずつ準備を進めてきました。そして2024年8月、ついに愛さんがこの島へ移住して、2人での島暮らしが始まったのです。

 

漁と中間育成

彰さんは漁師として旬の魚介を獲るのですが、真牡蛎(マガキ)の中間育成に力を入れ、『参州オイスター』のブランド名で出荷もしています。漁業としての屋号「永運丸」は、お店の屋号でもあります。

中間育成は天然(または人工)の魚介を一定の大きさに育てる過程のことで、稚魚や稚貝を人工的に管理された環境で育て上げる養殖とは少し違います。参州オイスターは佐久島で獲った天然の真牡蛎を中間育成した、味わい深い天然牡蛎。永運丸の看板商品です。

中間育成以外にも、例えばこれからが旬のアオリイカなどを、締め方や瞬間冷凍などの工夫により鮮度の高い状態で出荷していくそうです。

 

漁師の嫁の店、オープン

愛さんが移住してきたちょうどその時期、この家が空くという話が浮上し、お店はぼちぼちと考えていたのですが、ならばすぐやりましょうという話に。タイミングも立地も素晴らしかったとのこと。初めての飲食業なのでメニュー考案など不安はあったものの、もともと料理好きだし、頑張ろうと思いました。

お店の売りは「漁師の嫁の店」。獲れるものはシーズンごとに変わります。いつも旬のもの、新鮮なものを提供できるところが自慢。「でも夫がまだ新米漁師なので、まだ獲れるものが限られますけど」と笑う愛さんです。一番のおすすめはやっぱり冬牡蛎。12月から5月まで、半年間ぐらいは食べられるそうですよ!

お酒の種類が豊富なのもポイントです。ボトルキープも可能。おいしい魚とうまいお酒が味わえます。

 

すんなり、島暮らし

佐久島での生活は「ちょっとした会社のイメージ」だと言う愛さん。漁師仲間とか町内会とかいろいろな部署があって、お互いによく知っていて、そこに自分も属しているという感じ。会社の人だからみんな助けてくれる。そんな、大きくはないけれどほどほどの規模の会社のような距離感。「マンションの隣の人さえ知らない名古屋の時よりもあったかい」とのこと。

「私はいきなり来て島暮らしをスタートさせたわけではありません。事前に何回も島に来ていたし、知り合いも徐々に増えて、結婚パーティも開いてもらったほどです。何よりも、夫が人間関係をある程度築いていたのが良かったかも」

 

ただ、たまに無性にハンバーガー店などへ行きたくなる時があって、それはちょっと不便に感じるといいます。本土へ出る際にはハンバーガー店や牛丼屋、ラーメン店などに必ず飛び込んでしまうそうです。ファストフードがご馳走に感じられるようですね。

 

これからの夢

佐久島に何度も来たいとお客様に思っていただけるお店にしたい、それが愛さんの当面の目標。リピーターになってくれるお客様を増やしたいですね!

愛さんにはこんな夢もあります。

「自分が移住してくる時に働く場所に困ったので、そういう場所が一つでも多くあればもっと移住しやすくなるかなと考えました。だから、漁師でも店の従業員でもいいのですが、人を雇えるぐらいの規模のお店にしたい。短期間のアルバイトではなく、この島に住んで働いてもらえるようにしたい。いつかそういう形で島に貢献できればいいなと思っています」

佐久島に定住したいと彰さんから言われた時、動揺はなかったという愛さん。それまで一つの職場でずっと働いてきましたが、自分とは違う広い視野を持っている彰さんを素晴らしいと思ったそうです。これからも佐久島での生活を楽しんでくださいね。