三河湾の黒真珠とその謂われ

■なぜ「黒真珠」なのか?

世界には特定の色で代表される都市がある。ミコノス島(ギリシャ)の「白」やシエナ(イタリア)の「赤」などが有名で、それぞれ「エーゲ海に浮かぶ白い宝石」「シエナの赤」と呼ばれている。名古屋市立大学芸術工学部長の瀬口哲夫教授は、世界に名だたるこれらの都市に並ぶ存在として、佐久島の「黒」に着目した。そして、ミコノス島やシエナのように特別な名前で呼ばれることのなかったこの島に、「三河湾の黒真珠」という名前を与えた。これが黒真珠の謂われである。

■ミコノス島との、白と黒の対比

瀬口教授は、「島」という点や、独自の色を島民が自らの手で管理している点など、共通項の多いミコノス島と佐久島とを、全く正反対の色、つまり「白」と「黒」を用いた都市として比較している。ミコノス島はまばゆいほどに真っ白な島だ。空と海の青さに、白い建物が映える。一方、佐久島の海は地中海よりも深みがあり、黒や灰色がかった建物がしっくりと馴染む。いずれの島も、色に特徴が表れた独特の景観を、島全体で守り抜こうとしている。ちなみに(瀬口教授はふれていないが)ミコノス島にも佐久島にも、猫が多い。

■光沢を放つ黒

ミコノス島の白は石灰。佐久島の黒はコールタールである。ただの黒ではなく光沢があるのはこのためだ。漁業だけでなく、かつて海運で栄えたこの島では、防水のため船底にコールタールを塗っていた。それが建物に活かされ、現在まで続いている。この美しい景観を保存・修復していくため、島を美しくつくる会/ひと里分科会が中心となって“黒壁運動”を進めている。

※瀬口教授の論文は中京大学評論誌「八事」No.17をごらんください。